────Japan Association for East Asian Text Processing(JAET)────

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========== 東洋学研究・教育の電子化と電脳漢字処理の最新情報 ==========

                    ■□    2013.07.01    □■
                    ■□     一九八号     □■

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◆◇ JAET か ら の お 知 ら せ  ◇◆
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■□ JAET 2013 Summer Conference「大学教養課程とICT教育」 □■
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共催:科学研究費補助金・基盤研究(B)「情報化時代における中国学次世代研
   究基盤の確立」(研究代表者:二階堂善弘)

【日 時】2013年7月27日(土)13:30より
【場 所】北海道大学情報教育館3階スタジオ型多目的中講義室
     http://www.hokudai.ac.jp/introduction/campus/campusmap/
【開催趣旨】
大学教育におけるICTの重要性が謳われるようになって久しい。最近でも自民
党・教育再生実行本部が発表した「成長戦略に資するグローバル人材育成部会
提言」[*]では「国家戦略としてのICT教育」が、教育改革の「三本の矢」の一
つとして大きく打ち出されている。この提言は大学教育に関するものではなく、
実効性・実現性などにおいても疑問がないわけではない。しかし、教育におけ
るICT利用の重要性がいまだ衰えていないことを示唆するものであろう。
[*] http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouikusaisei/dai6/siryou5.pdf

このようなスローガンが何度も繰り返されるなか、大学教育におけるICT利用
はどの程度進んでいるのだろうか。近年、大規模データベースやデジタルアー
カイブ、オンラインジャーナルなどが充実してきたことにともなって、専門教
育においてはICT利用の道筋ができてきたようにも見える。しかし、その前提
となる教養課程(全学共通教育)、特に初年次教育や外国語教育などの多くの
学生に一斉に授業を行うカリキュラムにおいては、利用が進んでいるようには
見えない。

本カンファレンスでは、以上のような問題意識のもと、大学教養課程における
ICT利用について情報を共有し、批判的かつ建設的な議論をする場としたい。

【プログラム】
13:30 開催趣旨説明(師茂樹)

◯第1部 初年次教育とICT
13:40 師茂樹(花園大学)
  「スタディスキルズ教育としてのICT教育 ―レポートの書き方を中心に―」
14:25 金子大輔(北星学園大学)
  「大学共通科目における情報系科目の展開とソーシャルメディアの活用事
  例」

15:10 休憩

◯第2部 外国語教育とICT
15:40 中西千香(愛知県立大学)
  「初修外国語中国語教育の私的取り組み(仮題)」
16:25 山崎直樹(関西大学)
  「21世紀型スキルを視野に入れた外国語教育 ―ICTをどう使うか、あるい
  はどう使わないか(仮題)」

17:10 総括討論
18:00 終了

◯懇親会

・シンポジウム終了後18:30より懇親会を行います。
・和菜 こうりん亭(わさい こうりんてい)
 http://tabelog.com/hokkaido/A0102/A010201/1009377/
 会費:6000円(学生4000円)
・要申し込み:http://www.jaet.gr.jp/meeting-form.html

◯お知らせ

・入場無料。非会員の方は参加費500円を申し受けます。
・当日受付の円滑化のため、事前出席登録にご協力願います。
 事前出席登録:http://www.jaet.gr.jp/meeting-form.html

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第I部 大学生入門
  第1課 大学での学び
  第2課 グループで学ぶ
  第3課 情報モラルとコミュニケーション
  第4課 ノートテイキング
第II部 情報収集入門
  第5課 情報収集の基礎
  第6課 本を探す
  第7課 論文を探す
第III部 リーディングと問題発見
  第8課 リーディング入門
  第9課 問題発見
第IV部 レポート執筆とプレゼンテーション
  第10課 調査から研究へ
  第11課 プレゼンテーション入門1
  第12課 プレゼンテーション入門2
  第13課 レポート・論文執筆の基礎1
  第14課 レポート・論文執筆の基礎2
第V部 まとめ
  第15課 これまでの学びのふりかえり
第VI部 巻末資料
  Evernoteの使い方
  CiNiiの使い方
  PowerPointの基礎
  レポート・論文のためのWordの基礎
  Excelの基礎
  小論文
コラム
  就職活動とグループディスカッション
  ノートのかわりに写メはダメ?
  近代デジタルライブラリーとGoogle books
  「紀要」って何?
  多読のススメ
  Wikipediaは引用してもよいか
  出席点
ワークシート

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■□漢情研2012年公開シンポジウム報告

●デジタル書籍・著作権に関する最新動向
  ─これからの東アジアにおけるデジタル文化のために─

■□特集1  もっと『電脳中国学入門』

・1 Mac・スマートフォンで中国語
・2 IMEを使いこなす
・3 文書作成のテクニック
・4 中国学基本リソースガイド
・5 文献のデジタル化

■□特集2  中国学向け情報スキル  アンケート追加調査&分析

■□中国語CAI研究会実践レポート    日本中国語CAI研究会□■

■論文■
・UCSにおける漢字異体字の情報処理                           川幡  太一
・東洋史学専攻の大学生によるWikipedia検証作業の試み
  ─学生の自己検証能力の育成を目的として─                 小川  快之

▽▲▽▲レビュー & リソース情報▽▲▽▲

中国語電子辞書レビュー2012 ─カシオEX-word XD-7300とキヤノンwordtank
Z900─ / 電子書籍端末 / Windows8 / Microsoft Office 2012 / OS X Mountain
Lion / 一太郎2012承 & ATOK2012 / Chinese Writer10 / 韓国の人文学学術
情報系ウェブサイトについて / 愛如生『申報』『方志庫』『宝巻』データベー
スについて

■□書評■□
『人間はガジェットではない』 / 『中国の情報通信革命』

■□その他■□

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◆◇ JAET か ら の お 知 ら せ  ◇◆
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■会員向け情報
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○【重要】『大学で学ぼう 知のスキルアップ15』会員向け贈呈のお知らせ
 2012年度会費納入済みの会員の方には1部お送りしております。未着の方は
 お知らせください。

○【重要】会費納入のお願い
 会費未納の方は、出来るだけ早くお振り込みください。
 振込口座は http://www.jaet.gr.jp/JAET-BBS/ (会員専用)トップページ
 にてご確認ください。また、会員種別変更(一般・BBS)も随時受付中です。
 ※ 一般会員で会費が未納の方には、当該年度の『漢字文献情報処理研究』が
    発送されません。早急にお振り込みください。

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◆◇ JAET-BBS ダ イ ジ ェ ス ト・2013.5.26〜6.25◇◆
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・漢情研会員はリンクをクリックするとJAET-BBSの当該発言を閲覧できます。
・BBS更新情報はRSSでも配信しています。http://jaet.gr.jp/index.xml

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■談話室
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○when.exe Ruby版 rev.1392β公開
  「古今東西あらゆる文化および言語で用いられた暦を表現し変換することを
  目指している」when.exeの最新版が公開。たゆみない開発の成果。コメント
  をいただけると幸い、とのこと。
  http://www2u.biglobe.ne.jp/~suchowan/u/wiki.cgi?Calendar%2FWhen%2FRuby
  http://www.jaet.gr.jp/JAET-BBS/contents.cgi?room=ac4&mes=336

○re:「漢字」という語彙はいつから使われたのか
  『漢情研メルマガ』197号に掲載された山田崇仁氏のコラムに対するコメン
  ト。2013年2月2日に開催されたシンポジウム「文化の衝突と融合 ―東アジ
  アの視点から―」における王勇氏の講演でこの問題が議論されているとのこ
  と。
  http://www.waseda.jp/trns_cult/info-201301.pdf
  http://www.jaet.gr.jp/JAET-BBS/contents.cgi?room=ac4&mes=337

○近デジにおける大正蔵初版の公開がストップ?
  日本出版者協議会の申し入れにより、近代デジタルライブラリーで公開され
  ていた『大正新脩大蔵経』『南伝大蔵経』が館内閲覧に限定されたことによ
  り、ネットで大きな話題に。
  http://www.jaet.gr.jp/JAET-BBS/contents.cgi?room=ac4&mes=339

━気まぐれコラム━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

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◆◇ 近代デジタルライブラリーの大正蔵等の公開停止の論点整理 ◇◆
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                                                              師 茂樹

■はじめに

漢情研BBSや、上の「JAET-BBSダイジェスト」でも報告した通り、国立国会図
書館の近代デジタルライブラリー(http://kindai.ndl.go.jp)で公開されて
いた『大正新脩大蔵経』全88巻、『南伝大蔵経』全70巻中21巻が、館内閲覧に
限定され、ネット上で大きな話題となっている。

・国会図書館の著作権切れ書籍のネット公開に復刻出版社が難色、一部を公
  開停止 | スラッシュドット・ジャパン Submission
  http://slashdot.jp/submission/51535/
・国会図書館近代デジタルライブラリーの件で - Togetter
  http://togetter.com/li/520426

ネット上での反応は上記「国会図書館近代デジタルライブラリーの件で」をご
覧頂ければと思うが、出版社が「既得権益」を守ろうとすることへの批判、特
に著作権が切れた出版物に出版社の権利を及ぼそうとする(ように見える)こ
とに対する批判が多く見られるようである。

この問題については、それこそ本会恒例の著作権シンポジウムで一度、議論を
してもよいのではないか、と思われる。とはいえ、今年の夏のイベントについ
てはすでに決定している(上記案内参照)。このコラムをシンポジウムの代わ
りとすることはもちろんできないが、わかる範囲で論点を整理することぐらい
はできるだろう。以下、今後の議論のたたき台となるようなポイントを、いく
つかあげておきたい。

■大正新脩大藏經とは

今回の問題は、『大正新脩大蔵経』全88巻、『南伝大蔵経』全70巻中21巻につ
いてであるが、『南伝大蔵経』については著作権が切れていないものも含むた
め、問題がやや複雑である。このコラムでは『大正新脩大蔵経』にしぼりたい。

『大正新脩大蔵経』(以下、大正蔵)は、現在、仏教(学)界でもっともスタ
ンダードに用いられている漢字仏典の叢書である。前半はインド撰述部と通称
され、元々インドの言葉で書かれた仏典を漢文に翻訳したものが収録されてい
る。仏典の漢訳は古いもので紀元2世紀ぐらいにまで遡るとされている。一方
後半は中国・韓国・日本などの東アジアの仏教者が主に漢文を用いて書いた著
作が収録されている。ただし、日本で言えば江戸時代までのものに限られ、近
代化以降の著作は含まない。

大正蔵の成立については、次のように言われている。

  大正新脩大蔵経全百冊は、高楠順次郎博士と渡辺海旭博士の両都監のもとに、
  小野玄妙博士をはじめ多数の仏教学徒の献身的な努力によって、大正十一年
  から昭和九年まで満十三年の歳月をついやして完成をみたものである。(大
  蔵会編『大蔵経 ―成立と起源―』百華苑、1964年、105頁)

大正蔵の出版事情については、永崎研宣氏の一連のツイートが参考になるだろ
う。

・『大正新脩大藏經』刊行にまつわる苦労話 - Togetter
  http://togetter.com/li/521547

■大正蔵と著作権

さて、先ほど紹介したように、今回の件については「著作権が切れた出版物な
のに」という批判が多かった。では、大正蔵における著作権について少し整理
しておこう(以下、議論を単純化するために、現行の著作権法を基準にして話
を進める)。

大正蔵に収録されている仏典や著作は、インドで書かれたものはもちろん、東
アジアで書かれたものについても、最も新しくて江戸時代のものなので、大正
蔵の刊行が始まった大正11年(1922年)の段階ですでに、著作権はほぼ切れて
いると考えてよいだろう(大正蔵に著作が収録されている著作権者で、一番最
後に亡くなったの人が誰なのか、まだ調査はしていないが)。

では、大正蔵の「著作権」とは何なのだろうか。上の引用にあるように、「高
楠順次郎博士と渡辺海旭博士の両都監のもとに、小野玄妙博士をはじめ多数の
仏教学徒の献身的な努力」のことを指しているのだろうか。ここに名前の出て
いる人々の生没年は以下のとおりである。

・高楠順次郎(1866年〜1945年)
・渡辺海旭(1872年〜1933年)
・小野玄妙(1883年〜1939年)

大正蔵第85巻・普及版の奥付を見ると、高楠順次郎が「編集者兼初版発行者」
とされており、この3人のなかでも高楠順次郎が編集者ということになるのだ
ろう。仮に高楠順次郎に著作権を認める場合であっても、1945年に亡くなって
いるので、現時点で著作権は切れていると考えてもよいだろう。

ここで「仮に」と言っているのは、大正蔵に収録されている著作の著者は上に
述べたように釈迦牟尼仏を筆頭とする江戸時代以前の仏教者であって、高楠順
次郎らが行ったのは仏典の校訂や編纂作業である。校訂や編纂に著作権を認め
るのかどうかについては、本会で以前議論してきたところであり、石岡克俊氏
の一連の論考にその一部がまとめられている。

・石岡克俊「東洋学情報化と法律問題―第3回 「校訂」の著作権法上の位置
  校訂権とその周辺(その一)」(『漢字文献情報処理研究』第6号、2005年)
・石岡克俊「東洋学情報化と法律問題―第4回 音楽/楽譜の校訂と著作権法
  (前編)校訂権とその周辺(その二)」(『漢字文献情報処理研究』第7号、
  2006年)
・石岡克俊「東洋学情報化と法律問題―第5回 音楽/楽譜の校訂と著作権法
  (中編)校訂権とその周辺(その三)」(『漢字文献情報処理研究』第8号、
  2007年)
・石岡克俊「『校訂』の著作権法上の位置」(『慶應義塾女子高等学校紀要』
  26号、2009年)

詳細は石岡氏の論文を参照していただくとして、大雑把に言えば、日本では校
訂に対して著作権的なものを認めておらず、いくつか認めている国においても、
学術的に価値の高い、オリジナリティがあることが前提となるようである。大
正蔵は、サンスクリット文献との比較や、発見されたばかりの敦煌文献を使っ
た校訂など、当時の仏教学の最新の成果を反映したものであると言っても過言
ではないが、校訂権の規定がない日本においてそれをどのように評価するのか
については議論が必要であろう。

■大正蔵再刊とその保護

今回の公開停止要求について、日本出版社協議会のプレスリリースでは次のよ
うに述べられている。

  大蔵出版が復刻した『大正新脩大蔵経』全88巻全巻、『南伝大蔵経』全70巻
  中21巻が、刊行中にもかかわらず、著作権保護期間切れということで、原本
  がネット公開されていることへの異議申し立て・公開中止要求を軸に、国会
  図書館のデータネット公開・公立図書館への配信に関して意見を交換しまし
  た。(http://shuppankyo.cocolog-nifty.com/blog/2013/06/post-f960.html)

これについて、上記スラッシュドット・ジャパンでは、次のように解説が述べ
られている。

  出版協は文化庁の出版関連小委員会においても「古典を新たに組み直したり、
  翻刻、復刻するなどして出版した出版者」「著作権が消滅した未発行の著作
  物を発行した出版者」などに「一定の条件をつけて一定期間保護するための
  法的整備を要望したい」として、絶版出版物の復刻などに関しての権利付与
  を訴えている(詳細は出版協の提出資料を参照のこと)。

要するに著作権が切れた著作であっても、古典などの翻刻・覆刻などについて
は、出版社に対して一定の保護をすべきである、という主張であろう。ここに
「法的整備を要望したい」とあるように、現在ではそのような保護をする法律
は存在しない。

大正蔵の初版は、先に述べたように1922年から1934年のあいだに行われている。
しかし、その入手が困難になったとの理由で、1960年に再刊が行われているの
である。さらに海外の海賊版との価格競争(?)のために、1991年にはソフト
カバーの普及版が出版されている。

仏教学の一研究者としては、現在のようにSATなどの電子版が整備されている
状況においても、(日本の文化遺産を保護せよ、というような情緒的な理由で
はなく)研究用のツールとして印刷された大正蔵は必要だと思うし、出版され
続けてほしいとも思う。そして、大正蔵の出版に大きなコストがかかっている
のは間違いがないので、様々な努力によってそれを成し遂げ、維持している出
版社に広い意味での「保護」がなされる必要があるのは首肯しうる。

■今後の議論のために

しかし一方で、その「保護」をするのが法律によるべきなのか、国家としてで
はなく学界や仏教界ではダメなのか、大正蔵を出版している大蔵出版にしか大
正蔵を出版する権利はないのか等々、多くの問題点も指摘しうるのではないか
と思う。一消費者の立場から言えば、もっと安い大正蔵、もっと質の高い大正
蔵があってもいいのではないか、とも思うし、大正蔵の次のバージョンを作っ
てもいいんじゃないか、と(無責任に)思ったりもする。

著作権法の第一条にある「文化の発展に寄与することを目的とする」ではない
が、今回の問題も広く文化や学術を社会としてどのように「発展」させていく
べきなのか、という問題ではないかと思う。本コラムでは、その議論のために
共有しておくべき情報のごく一部を述べたに過ぎないが、今後そのような議論
へとつながる一助となれば幸いである。

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┃                                                       毎月1日発行┃
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┃                                編集・発行:漢字文献情報処理研究会┃
┃                                            本号編集担当:師 茂樹┃
┠─────────────────────────────────┨
┃本メールマガジンの内容を、著作権法に定められた範囲を超えて、無断で┃
┃引用・転載・再利用することを厳禁します。                          ┃
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Last-modified: 2018-10-20 (土) 15:51:08